すみここちレポート

# 007変わるもの、変わらないもの。

杉並区O様邸2000年竣工

これまで生活してきた場所を、どのようにして受け継いでいくべきか。そんな想いを心に温める方も少なくないのではないでしょうか。戦後から、高度経済成長を経てきた日本、特に都内では周辺の開発などにより、暮らしはじめた頃と比べ、宅地としての価値が大きく変化したという場所も数多くあります。

Oさんの暮らすお宅も、そんな場所のひとつです。JR中央線の駅から徒歩5分ほど。商店街の賑わいにもほど近い立地でありながら、周辺は閑静な住宅街。今からこのような条件で土地を探しても、なかなか見つからないだろうと察せられる立地です。
Oさんがこの土地に暮らしはじめたのは40年以上も前のこと。近隣の不動産会社からの薦めがあったのがキッカケだとか。「僕の仕事場が歩いてすぐの所でしたから、でも、この辺りは当時でも、なかなか土地が売りに出るということがなかったんですよ」とご主人。「商店街の方も今ほどにぎわってはいませんでした」と奥さま。「この街に住みはじめた当初は駅から歩いて1分の所に住んでいましたから、現在のこの場所でもずいぶん遠く感じたものですよ。それが今では駅から10分の場所でも近いと言われるようになりましたから、時代が変わりましたね」。

住まいを2世帯で暮らせる住宅へ建替えよう。Oさんがそう決意されたのは2000年のことでした。それまでの2階建ての住まいを3階建てに。近くにお住まいだった長女のご家族を呼び寄せて、お孫さんも含め3世代で暮らせる家へと建替えられました。2世帯住宅と言っても玄関を分けるようなことはせず、家の真ん中に玄関と階段を置くことで、家の左右で効率的に生活が分かれるよう工夫がされています。

「それまで暮らした家を建替えるのは、やっぱり寂しかったですよ。少しでも思い出を残したいと思いまして、当時の柱を使ってもらうよう細田さんにお願いしたんです」。現在その柱は、毎日ふれる手すりの代わりとしてご夫婦の寝室で活躍しています。そして、もうひとつのこだわりは、和室の陽当たりの良い場所に奥さまのご趣味である帽子づくりのための作業台があるということ。「40年以上も続けているんですよ」というだけあって、お店に並んでいても不思議ではない出来栄え。そして、どれもが婦人物ばかり。男性物に関しては、「以前に一度、主人のために作ったことがあるんですよ。贅沢に2種類の革を使って、凝ったつくりの物でした」「それをはじめて冠って仕事に出たその日に、どこかに置いてきちゃったんですよ」と笑い合うお二人。男性物をつくらない理由がわかるような気がする、陽当たりの良い和室で語り合うご夫婦の仲の良さが印象的なお宅でした。