#025「だし」さえあれば。
だし愛好家・ライター 梅津 有希子さん
日本の伝統的な食文化のひとつである「だし」。味噌汁、煮物、鍋など日々の家庭料理にも欠かせない存在ですが、顆粒だしやパックだしが普及した現代では、自分でだしをとる機会が少なくなっているのも事実です。けれども、もしだしをとることが「面倒」「難しそう」と思っているとしたら、もったいない思い込みかもしれません。
そんな風に感じさせてくれたのは、ライターで“だし愛好家”の梅津有希子さん。梅津さんがだし生活に目覚めたきっかけは、帰省時に食べたお母様手作りの年越しそばだったそう。
「一口すすってあまりのおいしさに衝撃を受けました。どうやって作ったのかを尋ねると、昆布やあご、鶏ガラの合わせだしだったんです。それまでは私も顆粒だしばかり使っていたので、自分でだしをとるとこんなにおいしいのか!と知って俄然興味が湧き、だしに関する取材や実践を重ねるようになりました」。
だしをとる時に気になるのは、やはりやり方や分量。梅津さんがプロの料理人やかつお節専門店など方々に取材した結果、たどり着いたのは「正解はない」という事実だったといいます。
「かつお節の分量も1Lに15g、30g、“ひとつかみ”と本当に人によって様々。世の中に『正しいだしのとり方』なんてなくて、自分がおいしいと思えればいいんだと気づけたのは大きな収穫でした。私はとにかく続けられることが目標だったので、『おいしくて面倒じゃない』やり方を試行錯誤しました。家庭で毎日沸騰直前を見計らうのは大変ですし、高級なかつお節をたっぷり使っていてはコスト面でも続きませんから」。
そう語る梅津さんが続けているやり方は、冷水ポットに昆布を入れて冷蔵庫で一晩置く、コーヒードリッパーでかつおだしをとる、といった簡単なものばかり。
「昆布だしは合わせだしとして万能なので常備していますが、しっかり香りを楽しみたい時はかつおだし、普段はコストを抑えられるいりこだし、と使い分けています。かつおだしは鍋を使うこともありますが、煮物などでちょっとだけだし汁が必要な時はドリッパーが本当に手軽で便利ですよ」。
今ではだし生活が10年を超えた梅津さん。続けられる最大の理由は「おいしいから」と笑顔で語ります。
「だしそのものがおいしいので、料理も味付けもシンプルになり使う調味料がかなり減りました。自然と減塩にもなって健康的な食生活を送れていますし、その事実が心にもゆとりをもたらしている気がします。だしさえあれば、凝った料理をしなくてもお家ごはんが格段においしくなるので、きっと楽しく続けられると思います」。
自分に合ったやり方で、おいしいだし生活を始めてみませんか。
梅津流・簡単なだしのとり方
冷水ポットでつくる昆布だし
- 用意するもの
- 冷蔵庫に入るサイズの冷水ポット
- 昆布(乾燥タイプ) 20g
- 水 1L
冷水ポットに昆布と水を入れる。
冷蔵庫で一晩置く。
昆布は刻んだ方がだしが出やすいという説もありますが、私が試して飲み比べてみた限りでは、あまり違いは感じられませんでした。楽に続けるためにも、ポットに入るサイズであればそのままでOK!もし手に入れば、濃厚なだしがとれる真昆布か羅臼昆布がおすすめです。昆布だしで袋麺やインスタントスープを作るとグッと味に深みが出るので、ぜひお試しあれ!
コーヒードリッパーで淹れるかつおだし
- 用意するもの
- コーヒードリッパー
- ペーパーフィルター
- コーヒーサーバーかマグカップ
- 使い切りパックのかつおぶし 1袋(4~4.5g)
- お湯 150mL
コーヒードリッパーにペーパーフィルターをセットし、かつおぶし1袋を入れる。
一気にお湯を注ぐ。
まさにコーヒー感覚で1杯分から手軽にだしがとれる方法です。お湯は一気に注いだ方が、かつおぶしがお湯にしっかり浸かって濃いだしがとれます。冷水ポットの昆布だしを加えれば、簡単合わせだしの完成!プラスチックのドリッパーはにおいがつきやすいので、気になる方はだし専用のドリッパーを用意しておくことをおすすめします。
「だしがら」活用術
だしをとると必ずついてくるのが「だしがら」。昆布は刻んで佃煮に、かつおぶしはふりかけにするのが定番アレンジですが、毎回では手間もかかり、飽きてしまうもの。梅津さんは「毎回無理に使い切る必要はないと思います」と語ります。「使い切れない時は冷凍保存することもありますが、何が何でも食べ切らなきゃ!と思うとプレッシャーになってしまうんですよね。それではやはり続けられないので、もったいないもほどほどでいいのかなと思っています。簡単でおすすめなのは、そのままサラダや和え物、炒め物に使う方法。手間をかけずにおかずのうまみをアップできるので、ぜひ試してみてください」。
取材協力: だし愛好家・ライター 梅津 有希子さん
雑誌編集者を経て独立し、雑誌やwebメディア、書籍を中心に、暮らしや食、発信力などのテーマで執筆・講演をされています。著書『だし生活、はじめました。』がベストセラーとなり、だし愛好家としてテレビ・ラジオにも出演するなど、だし生活の魅力を幅広く発信中。
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