PRODUCED BY GROWING CLUB FROM HOSODA CORPORATION

#017雨の日を待ちわびて。

前原光榮商店

前原光榮商店の日傘をさしている人

特別な日に着たい服や靴があるように、とっておきの傘を持っていますか?憂鬱になりがちな雨の日も、お気に入りの傘があるだけで心が軽やかになるもの。そんな特別な1本を求めて今回お話を伺ったのは、昭和23年創業の老舗洋傘メーカー「前原光榮商店」。洋傘メーカーは数あれど、製造のすべての工程を国内で職人が手づくりしているのは、今や日本で同店のみなのだそうです。代表取締役専務の前原誠司さんは、かつて日本の日用品として当たり前に存在していた手づくりの洋傘について、こう教えてくださいました。

前原光榮商店 店舗外観

「戦後から昭和40年代半ば頃まで、日本には当店のような洋傘メーカーがたくさんありました。傘づくりは分業制なので骨、生地、持ち手とそれぞれに専門の製造メーカーがあり、職人の手で仕上げるのが当たり前だったんです。しかもそれが高級品としてではなく、日用品として流通していましたから、現代の製品よりもずっとクオリティの高い傘がとても安く売られていたそうです。けれども高度経済成長と共に大量生産・大量消費の時代に入ると、傘も御多分に洩れず効率重視で生産拠点が海外に移されていきました。国内の洋傘メーカーは次々と廃業に追い込まれ、今では日本に流通する洋傘のほとんどが海外製になってしまいました」。

左:前原光榮商店 代表取締役専務の前原誠司さん|右:前原光榮商店 店内に並ぶ商品

そんな中、「前原光榮商店」では傘づくりを生地の織り、骨組み、手元、裁断縫製と4つの工程に分ける昔ながらの製法にこだわり、熟練の技を受け継ぐ各分野の職人たちが1本1本手づくりしているといいます。けれども前原さんは、「特別なものをつくっているという意識はあまりないんです」と語ります。

前原光榮商店の傘の制作工程

「昔ながらの洋傘づくりを愚直に続けているだけなのですが、使い心地を大切にした日本のものづくりそのものが、いつの間にか特別になってしまったのだと思います。傘はたとえ同じ材料を使っても、仕立てる職人の腕によってガラリと雰囲気が変わるんです。特に肝となるのは生地の裁断縫製で、たった数ミリの誤差が傘を広げた時の生地の張り感やフォルムに影響するので、当社では針の落とし方ひとつにも細心の注意を払っています。生地のパリッとした張り、雨を弾く音、木や革が徐々に馴染んでいく手元など、使ってこそわかる手づくりの良さをぜひ体感してほしいですね」。

前原光榮商店の傘

傘は日常で老若男女の誰もが使うものだからこそ、「世の中の傘に対する意識を少しずつ変えていきたい」と前原さん。
「傘はいつもビニール傘ばかり、という状況をなんとかしたいなと思っています。とはいえビニール傘を否定しているわけではなく、高級な傘だけがいいということでもありません。服や靴、鞄と同じように、シチュエーションに合わせて傘を選び、コーディネートを楽しんでもらえるようになったら嬉しいです。雨の日ってどうしてもネガティブなイメージがありますが、『今日はどの傘にしようかな』『早くあの傘を使いたいな』と思えるようになると、雨の日の暮らしも格段に豊かに変わるはずですから」。
「前原光榮商店」のショールームでは、前原さんらスタッフの方々の丁寧な解説のもと、数ある生地や手元の質感の違いをじっくり吟味しながら傘選びを楽しめます。雨の日を豊かに彩る1本を探しに出かけませんか。

雨の中「前原光榮商店」の傘をさして歩く

傘の正しいお手入れ方法

前原光榮商店の傘

「前原光榮商店」の傘は、適切に手入れや修理を施すことで10年、20年と使い続けられるのだそう。大切な傘を長持ちさせるためにも、正しいお手入れ方法を知っておきましょう。前原さん曰く、最も肝心なのは「使った後はとことん乾かす」こと。
「雨の翌日にバルコニーやテラスに傘を広げて干しているのをよく見かけますが、屋外干しはNGです。紫外線が生地を傷めますし、風で飛ばされて骨が折れてしまうこともありますので、必ず屋内で干してください。この時、実はしっかり乾かすべきは傘の外側ではなく内側なんです。内側は雨に濡れていなくても湿気が溜まりやすく、そのままにしておくと結合部の金属などが傷む原因になります。夜寝る前などに、玄関やリビングに傘を広げた状態で一晩干していただければバッチリですよ」。
さらに靴と同様、同じ傘を連日使わずに休ませることも重要なのだとか。手をかけるほどに、お気に入りの1本への愛着が深まっていくことでしょう。

取材協力:前原光榮商店

取材協力:前原光榮商店

熟練の職人による100%国内生産を守り抜き、雨傘から日傘まで約100種類もの洋傘を製造・販売しています。創業地である台東区のショールームでは、全商品を手に取ることが可能。ロゴマークのトンボは、前進あるのみの「勝ち虫」の象徴として、創業者である前原さんのお祖父様が描かれたものだそう。 

前原光榮商店

ARTICLE