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#013光で暮らしを整える。

照明デザイナー 平井 辰可さん

昼も夜も、私たちの暮らしになくてはならない「光」。それは単に世界を明るく照らすのみならず、人間の心や体にも非常に密接に関わっています。例えば冬が長く日照時間が短い北欧では、人工光を浴びる光セラピーが一般的だったり、1 日の大部分を過ごす家の明かりについてこだわっていたりと、暮らしの中に「光」が文化として深く根付いているのだとか。今回そんな「光」にまつわるお話を聞かせてくださったのは、照明デザイナーの平井辰可さん。照明デザイナーとは、自然光や照明の取り入れ方など、空間における「光」そのものをデザインするお仕事です。
平井さんのご自宅には光を取り入れる工夫が満載

平井さんのご自宅には光を取り入れる工夫が満載
平井さんのご自宅には光を取り入れる工夫が満載
高い天井と採光用の窓が印象的
高い天井と採光用の窓が印象的

平井さんは、暮らしの中での光の重要性をこう語ります。
「人間は約 24 時間周期で変動する『サーカディアンリズム』と呼ばれる体内時計を持っており、血圧・体温・ホルモン分泌などの生命活動にも深く関係していて、リズムの乱れは睡眠障害や自律神経失調症、うつ病など心身の様々な不調の原因になるといわれています。このリズムを日々調整してくれるのが、自然界での1日における光の変化です。日中に太陽光をたっぷり浴びて、日没と共に休む、というサイクルが理想ではあるものの、現代の暮らしでは誰もがそれを忠実に実行するのはほぼ不可能ですよね。そこで役立てていただきたいのが、照明の効果なんです」。

壁や柱の陰影によるリズムが、空間に奥行きをもたらします
壁や柱の陰影によるリズムが、空間に奥行きをもたらします

日中の活動的な時間帯や集中したい時は、昼の太陽光に近い昼光色や昼白色。夕方以降やリラックスしたい時は、温かみのある温白色、電球色の照明を選び、就寝に向けて少しずつ明るさを落としていくと、サーカディアンリズムが整いやすいといいます。

開口部から光が行き届き、開放感抜群
開口部から光が行き届き、開放感抜群
日中は自然の採光だけでほぼ生活できるそう
日中は自然の採光だけでほぼ生活できるそう
壁のマテリアルが照明によって引き立ちます
壁のマテリアルが照明によって引き立ちます
リビングはやや照度を抑えてくつろいだ雰囲気に
リビングはやや照度を抑えてくつろいだ雰囲気に

「ただ住宅というのは、ひとつの空間で複数の人が様々な過ごし方をする場所です。リビングだってただ寛ぐだけでなく、そこで食事をしたり、仕事や勉強をすることもあるでしょう。多様なシーンを想定すると、照明の数はもちろん、明かりの強さや色味などの選択肢は多ければ多いほど心地よい空間をつくりやすいといえます。照明は入居以来変えたことがないという方も多いかもしれませんが、家具や食器を新調するような感覚でひとつでも新しい照明を取り入れてみると、空間ががらりと変わりますよ。例えば電球を変えるだけでもいいんです。今は調光機能付きやスマート電球など多様に進化していますし、照明器具に貼って色味を変えられるフィルムなんてものも販売されています。電球ひとつでも、充分に効果を感じられると思いますよ」。

平井さんの手がけた事例も拝見
平井さんの手がけた事例も拝見
直接光と間接光を使い分けて快適な作業スペース
直接光と間接光を使い分けて快適な作業スペース
寛ぐための空間には暖色系の光
寛ぐための空間には暖色系の光
植物やオブジェの影が昼間とは違った表情を見せます
植物やオブジェの影が昼間とは違った表情を見せます

ライフスタイルが一人ひとり異なる現代だからこそ、「自分の暮らしに合った、長く健康的に暮らせる光環境に意識を向けてほしい」と平井さん。
「心地よいと感じる明るさ、色味には個人の好みもありますし、年代やライフステージによっても変わっていきます。まずは自分がどんな明かりを心地よいと感じるのか、ぜひ日頃から意識してみてください。例えばお店に入って落ち着くなと感じたら、どんな明るさなのかを見ておくだけでもヒントになります。インテリアの模様替えをするように、照明もご家族であれこれ試してみれば、きっとますます豊かな時間を過ごせるようになるはずです」。

お住まいと似た穏やかな雰囲気の平井さんご夫婦
お住まいと似た穏やかな雰囲気の平井さんご夫婦

暮らしに心地よい光を取り入れるヒント

HINT 1:常夜灯をつけてみましょう。常夜灯

夜中に目が覚めてトイレに行く時などに、明かりをつけると眩しくて驚いてしまうことはありませんか?それは、起きている時間帯の明るさに合わせた照明が、寝ている時間帯の体にとってまぶしすぎるから起きる現象です。人間の目には空間の明るさに合わせて光を感じる量を調節してくれる機能がありますが、その場の光に慣れるまでには 1 ~ 10 分ほどかかるといわれており、急な明るさの変化に不快感を感じてしまうのだとか。そこで、寝ている間も廊下やトイレの足下、テレビの裏や棚の上などにごく弱い明かりをつけておけば、ふいに目覚めた時にわざわざ部屋の明かりをつけなくても安心して動くことができます。例えば直接コンセントに挿して使うフットライトやナイトライト、あるいは小さな電球でも、光源が直接視界に入らないように設置すれば OK。LED の普及によって熱や消費電力の少ない電球もあるので、一晩中つけていても安心です。

HINT 2:太陽光をコントロールしてみましょう。窓から入る太陽光

太陽光は、生き物にとって食べ物から得る栄養と同じくらい健康に効果があるといわれています。しかし日差しを室内にたっぷり取り込みたいと思っても、窓の外からの視線が気になってしまう、という場合もあるかもしれません。そんな時には、遮光性の低いレースのカーテンを付けたり、窓ガラスに半透明のフィルムを貼ってみるのがおすすめです。レースやフィルムを通して柔らかに拡散された光は室内を明るくしてくれるだけでなく、気分や健康にもよい影響をもたらしてくれるでしょう。逆に西日など強い日差しにお困りの方は、反射性の高いハーフミラーフィルムや、熱や紫外線をカットしてくれるフィルムを貼るのが効果的です。

HINT 3:季節によって光も衣替えしてみましょう。壁に映る影

日本は寒暖差のある地域ですが、近年はますます季節の気温差が激しくなっています。夏の暑さを和らげ、冬を暖かく乗り切るために、電球の色も衣替えしてみませんか。暑い時期には昼白色や昼光色など寒色系の光を、寒い時期には温白色や電球色など暖色系の光を選べば、実際の温度は変わらなくても視覚的効果で涼しさや暖かさを感じられるのだそうです。電球が交換できない照明器具の場合は、カラーフィルムや色温度変換フィルムなどをカットして発光部に貼り付けるという方法もあります。その際は照明器具の熱でフィルムが溶けたり発火したりしないようご注意ください。

HINT 4:庭やバルコニーにも光を取り込んでみましょう。灯りが灯るバルコニー

近年は庭やバルコニー、テラスを「アウトドアリビング」と称し、屋外と室内をつなぐ第三の空間として楽しむことが人気です。そのひとつとして庭やバルコニーにも様々な照明を加えてみると、昼間とはひと味違う表情や雰囲気が生まれ、普段何気なく見ていた空間が見違えるようになるといいます。例えば植木鉢や植物の合間に屋外用のランプを置いてみたり、アウトドア用のランタンやテーブルライト、キャンドルなどを灯してみたり。屋外用のコンセントがなくても、アウトドア用品では充電式のものも充実しています。外の空間は室内よりも暗いので、弱い光でも効果的に見えることが多いのだとか。庭やバルコニーに明かりをつけ、逆に室内をいつもより暗くすると、部屋がより広く見えるという嬉しい効果もあるそうですよ。

取材協力:照明デザイナー   平井 辰可さん

取材協力:照明デザイナー   平井 辰可さん

美大卒業後、デザイン事務所勤務を経て照明デザイナーの道へ。現在は住宅をはじめ、ハイブランドの路面店や飲食店、さらに街のランドスケープまで、屋内外問わず様々な空間における光のデザインを手がけています。10 代の頃舞台照明に興味を持ったのをきっかけに、光を扱う仕事を志すようになったのだそう。

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