
#028靴を育てる。
SMALL AXE SHOE REPAIR

英国のチャールズ国王は、20歳の頃に買った革靴に修理を重ね、かれこれ50年以上も履き続けているのだそうです。彼の愛用する靴には革を当てて修理された跡があることから、このような修理法を「チャールズパッチ」とも呼ぶのだとか。手間と時間をかけて物を大切にする心、それを美しいと感じる文化は、ここ日本にも息づいています。

そのことを実感できるのが、中目黒の靴修理専門店「SMALL AXE SHOE REPAIR」。店主の萩原憲一さんは、都内の靴修理店で働いた後、独立して店をオープン。独自に磨かれた靴修理の技術によって、革靴のみならず幅広い靴に対応してくれることから、年々依頼される内容も多様になってきているといいます。

「以前はやはり革靴の修理が多かったのですが、ここ数年でスニーカーの依頼がぐんと増えました。スニーカーは構造も素材も特殊なものが多く、なかなか修理を受けてくれるところが少ないので、当店なら、と希望を託すようにして持ってきてくださいます。もうボロボロだけどどうしても捨てられないんです、と言って1足のスニーカーを何十年と履き続けている方もいらっしゃいます。そうやって受付の時にその方の靴への思い入れを伺うと、僕自身も自然と気持ちが入るというか、なんとか直したいと思いますね」。

気に入って履き続けた靴ほど、汚れや傷は避けられないものですが、萩原さん曰く「靴は手入れをしながらじっくり育てていくのが醍醐味」とのこと。
「特に革靴の場合は、修理を重ねるほどに風合いが増し、自分だけの味わいが出てくるものです。修理をする時も、よりいい風合いが出て、さらに長く履いていただけるような直し方を心がけています。ピカピカの新品にはない魅力を、お客様と一緒に育てている感覚が嬉しいんです」。

そう語る萩原さんに靴を長持ちさせるコツを尋ねると、「毎日少しのブラッシングを欠かさないこと」。「私たちが髪を整えるのと一緒です。儀式のように続けていると、ブラシにもクリームの成分が移って、サッと払うだけで艶が出ますよ」。

丁寧に育てた靴は世代を超えて履けるといい、お客様の中には祖母から受け継いだ靴を履かれている方もいらっしゃるそうです。
「人生の豊かさにもいろんな尺度がありますが、ひとつは愛せるものが多いということだと思うんです。靴に愛情を持つと、日々が楽しいですよ。自分の足元を見て愛しみを感じられるのは、とても豊かなことではないでしょうか」。
愛情を注ぐほど、かけがえのない存在となる靴。あなたにもそんな一足はありませんか?

靴を長持ちさせる4箇条

靴の脱ぎ履きは、特に靴に負荷をかけやすいタイミングなのだそう。靴べらを使って優しく脱ぎ履きしましょう。紐靴の場合は、その都度紐をほどいて脱ぎ履きするとより長持ちします。

ホコリ落としには柔らかい馬毛のブラシ、革靴にクリームを刷り込む場合は腰のある豚毛のブラシがおすすめ。馬毛ブラシは革靴にもスニーカーにも使えるので、玄関にひとつ置いておくとよいそうです。

人間と同じで、靴にも休息が必要です。休ませることで湿気を完全に飛ばし、型崩れを防いでくれるのだとか。革靴の場合は乾燥する時に縮むため、シューキーパーを入れておくのがおすすめ。

靴の大敵は湿気。扉のついたシューズボックスに入れっぱなしにしておくと、カビや加水分解が発生してしまいます。除湿剤を入れておき、時々扉と、窓があれば窓も開けて風を通すようにしましょう。

取材協力: SMALL AXE SHOE REPAIR
以前は飲食業界で働いていたという萩原さん。職人の道を極めようとゼロから靴修理を学び、2015年に店をオープン。革靴からスニーカーまで、あらゆる靴の修理を受け付けています。簡単な修理なら2、3日、カスタムなど大掛かりなものは2ヶ月ほどかかることもあります。
SMALL AXE SHOE REPAIR
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