住まいの基礎講座
第4回
『第3回 建物の抵抗要素その1 -水平荷重に抵抗する耐力壁-』では、建物は地震力や風圧力に対し、バランスよく配置した耐力壁で抵抗しているとお話ししました。しかし、いくら丈夫な耐力壁を採用しても、それらが柱や横架材と緊結(部材を留め具などで結合すること)されていなければ、耐力壁は力を受け取ることも、また、力を伝えることもできず、荷重に抵抗することができません。今回は、『力の伝達』という視点で、建物の抵抗要素を考えてみましょう
1.柱の引抜力
水平荷重が加わった時、建物には歪もうとする力が働きます。そして、その力に抗おうとする耐力壁端部の柱には、引抜力という力が発生します。壁倍率の高い耐力壁を採用していても、引抜力によって耐力壁より先に柱が壊れてしまえば抵抗力は生かされず、建物は倒壊してしまいます。
壁倍率の低い耐力壁に水平荷重がかかると、柱が抜ける前に壁が壊れてしまう。
壁倍率の高い耐力壁に水平荷重がかかると、壁が壊れる前に柱が抜けてしまう。
そのため、建築基準法では『構造耐力上主要な部分である継手又は仕口は、ボルト締、かすがい打、込み栓打その他の国土交通大臣が定める構造方法によりその部分の存在応力を伝えるように緊結しなければならない。(以下略)』と定めており、『木造の継ぎ手及び仕口の構造方法を定める件』とする告示によって、取り付く耐力壁の壁倍率に応じた柱頭、柱脚の接合金物の仕様が決められています。 また、簡易な計算で耐力壁端部の引抜力を計算し、その値以上となる接合金物を選択する、『N値計算』という方法も認められています。
2.柱を支える梁の重さ
耐力壁端部の引抜力に作用する要素に、『壁上の梁や床構面による押さえ効果』があります。柱にかかる鉛直荷重によって上から押さえつけられることで、引抜力が相殺されるのです。鉛直荷重は、主として柱と梁を通じて下方へと伝わり、基礎から土台、土台から地盤へと流れていきます。ここで、梁について簡単に触れておきたいと思います。
梁というのは、鉛直荷重を支える横架材です。梁にかかる荷重には以下のようなものがあります。
梁の役割
天井を支えているということは、上の階の床と、その床にかかる荷重を支えているということだよ。梁は、上からの荷重を受け止めて、下へと伝える重要な部材なんだ。
住宅を検討する際には、耐震性能や耐風性能といった水平荷重に対する抵抗が重要視されますが、日常の生活においては、床の揺れやたわみなどによる生活上の支障が発生しないことも重要であり、床を支える梁には、これらの荷重を支え続ける性能が求められます。 これについては、部材に作用する応力が部材の持つ許容応力度以下であることと、梁が生活上の支障をきたさないたわみ量であるかどうかを確認することになります。 構造計算では、長期荷重、短期荷重、積雪荷重(短期または長期)ごとに、曲げ、せん断、たわみといった、それぞれの部材に生じる応力の最大値と部材の許容応力度を比較することになっています。
部材を設計するために必要な4つのデータ
部材を設計するために必要とされるデータは、曲げ応力、せん断応力、軸方向力の4種類の応力に、たわみを加えた4種類です。
曲げ応力(まげおうりょく) | せん断応力(せんだんおうりょく) | 軸方向力(じくほうこうりょく) |
---|---|---|
部材を曲げようとする力によって生じる応力をいいます。この力によって変形することを、たわみといいます。 | 部材に作用する力と、それを支える逆方向の力によって、部材をハサミで切るような力をいいます。部材の単位面積当たりのせん断力を、せん断応力といいます。 | 部材の長さ方向に作用する力で、柱に作用する力をいいます。 |
1.柱に生じる引抜力
柱に生じる引抜力の考え方については以下が原則です。
- 壁の耐力が大きいほど、引抜力は大きくなります。
- 柱の両側に耐力壁がある場合には、その両側の耐力壁の差が柱の引抜力になります。
- 梁や床板が拘束することによって、引抜力は柱頭と柱脚で分担することになり、柱脚自体の引抜力は小さくなります。
- 柱に上載荷重がある場合は、引抜力は相殺されて小さくなります。
柱頭・柱脚の接合の仕様を決める2つの方法
建築基準法の仕様規定では、平成12年5月31日建設省告示第1460号で、耐力壁の鉛直構面上の組み合わせによる金物の仕様(形状、寸法、材質など)を決めています。たとえば、耐力壁がどちら側にあるか、隅柱か平部分の柱か、1階の柱か2階の柱か、などの組み合わせごとに、金物の種類が指定されているということです。 この方法は、耐力壁の種類と配置の組み合わせごとに指定されている金物の種類を選択することで、短時間での設計が可能ですが、限られた耐力壁に対する金物しか指定されていませんので、耐力壁選択の自由度が限られてしまいます。 これに対し、幅広い耐力壁の種類と倍率に対応することができるN値計算法では、比較的簡易な計算で耐力壁端部の引抜力を算出し、その値以上となる金物を選択します。
性能表示のために望ましい引抜力の算出
柱頭・柱脚の接合部に関して、建築基準法に追加される性能表示はありません。ですが、性能表示は建築基準法仕様規定よりも高い性能を表示するので、設計法もできるだけ実情に合わせ、精度のよいものを用いることが必要です。 性能表示では、準耐力壁等を耐力要素として評価対象に追加していますので、一般的には、性能表示をするような建物では、せめてN値法で引抜力を算出し、準耐力壁等を含めて検討するのが望ましいと言えます。
接合金物の種類 | |||
---|---|---|---|
かすがい | かど金物CP-L | かど金物CP-T | 山形プレート |
柱の上下を接合する | 柱の上下を接合する | 柱の上下を接合する | |
羽子板ボルト (釘なし) | 羽子板ボルト (釘あり) | 短ざく金物 (釘あり) | ホールダウン金物 |
柱の上下を接合する | 柱の上下を接合する | 上下階の柱または 胴差同士を接合する | 基礎と柱、上下階の 柱同士を接合する |
2.N値計算法とは
N値計算法は、耐力壁端部または、耐力壁で挟まれた柱に生じる引抜力の最大値を、次の3つの要因から算出するものです。
- 柱の両側の壁の強度
- 柱上部の床構面による押さえ効果
- 柱に加わる鉛直方向の荷重
壁に挟まれた柱の引抜力は、両側の壁の引抜力と圧縮力の差となるため、これを壁倍率の差として計算します。
柱上部の床構面による押さえ効果は、出隅の柱とそれ以外で異なります。また、柱に加わる鉛直方向の荷重についても、出隅の柱とそれ以外では押さえ効果が異なります。 計算によって算出しようとする、接合部が備えていなければならない耐力を『N』という値で示しているため、 『N値法』『N値計算法』などと呼ばれています。
N値計算の算定式例
平屋の柱、または2階建ての2階の柱のとき
- N: 接合部倍率(その柱に生じる引抜力を倍率で表したもの)の数値
- A1: 当該柱の両側における軸組の壁倍率の差。ただし筋かいの場合、下記補正値表の補正値を加える
- B1: 周辺の部材による押さえ(曲げ戻し)の効果を表す係数。出隅の場合0.8、その他の場合0.5
- L: 鉛直荷重による押さえの効果を表す係数。出隅の場合0.4、その他の場合0.6
2階建ての1階の柱のとき
- N,: A1、B1は上記に同じ
- A2: 当該柱の上の2階柱両側の軸組の壁倍率の差。ただし筋かいの場合、 下記補正値表の補正値 を加える
- B2: 2階の周辺部材による押さえ(曲げ戻し)の効果を表す係数。出隅の場合0.8、その他の場合0.5
- L: 鉛直荷重による押さえの効果を表す係数。出隅の場合1.0、その他の場合1.6
筋かいの端部の計算時に加える補正値
筋かいは圧縮と引っ張りで強度の特性が異なるため、筋かいを用いた耐力壁の場合には補正が必要です。
筋かいが片側から取り付く柱の場合の補正値
取り付く位置 | ||||
---|---|---|---|---|
柱頭部 | 柱脚部 | 備考 | ||
筋かい の種類 | 厚さ15㎜以上×幅90㎜以上の木材 又はΦ9㎜以上の鉄筋 | 0.0 | 0.0 | たすき掛けの筋かいの場合には0とする。 |
厚さ30㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 0.5 | -0.5 | ||
厚さ45㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 0.5 | -0.5 | ||
厚さ90㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 2.0 | -2.0 |
筋かいが両側から取り付く柱の場合の補正値
a-1)両側が片筋かいの場合 – いずれも柱頭部に取り付く場合 –
一方の筋かい | |||||||
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厚さ15㎜以上×幅90㎜以上の木材又はΦ9㎜以上の鉄筋 | 厚さ30㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 厚さ45㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 厚さ90㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 備考 | |||
他方の 筋かい | 厚さ15㎜以上×幅90㎜以上の木材又はΦ9㎜以上の鉄筋 | 0.0 | 0.5 | 0.5 | 2.0 | 両筋かいがともに柱脚部に取り付く場合には、加算する数値を0とする。 | |
厚さ30㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 0.5 | 1.0 | 1.0 | 2.5 | |||
厚さ45㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 0.5 | 1.0 | 1.0 | 2.5 | |||
厚さ90㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 2.0 | 2.5 | 2.5 | 4.0 |
a-2)両側が片筋かいの場合 – 一方の筋かいが柱頭部に、他方の筋かいが柱脚部に取り付く場合 –
一方の筋かい | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
厚さ15㎜以上×幅90㎜以上の木材又はΦ9㎜以上の鉄筋 | 厚さ30㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 厚さ45㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 厚さ90㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 備考 | |||
他方の 筋かい | 厚さ15㎜以上×幅90㎜以上の木材又はΦ9㎜以上の鉄筋 | 0.0 | -0.5 | -0.5 | 2.0 | 両筋かいがともに柱脚部に取り付く場合には、加算する数値を0とする。 | |
厚さ30㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 0.5 | 0.5 | 0.0 | 1.5 | |||
厚さ45㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 0.5 | 0.5 | 0.5 | 1.5 | |||
厚さ90㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 2.0 | 1.5 | 1.5 | 2.0 |
b-1)一方がたすき掛けの筋かい、他方が柱頭部に取り付く片筋かいの場合
片筋かい | |||||||
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厚さ15㎜以上×幅90㎜以上の木材又はΦ9㎜以上の鉄筋 | 厚さ30㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 厚さ45㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 厚さ90㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 備考 | |||
他方の 筋かい | 厚さ15㎜以上×幅90㎜以上の木材又はΦ9㎜以上の鉄筋 | 0.0 | 0.5 | 0.5 | 2.0 | ||
厚さ30㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 0.0 | 0.5 | 0.5 | 2.0 | |||
厚さ45㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 0.0 | 0.5 | 0.5 | 2.0 | |||
厚さ90㎜以上×幅90㎜以上の木材 | 0.0 | 0.5 | 0.5 | 2.0 |
b-2)一方がたすき掛けの筋かい、他方が柱脚部に取り付く片筋かいの場合
…加算しない
c)両側がたすき掛けの筋かいの場合
…加算しない
N値計算では、『壁倍率の差』を用いることに注目してください。この計算式を用いる場合、壁量にどれだけ余裕を持たせていても、接合部は仕様を軽減することができません。これは、接合部が壁よりも先に壊れないようにするためです。 壁量計算では、壁が先に壊れるようにするために、多少壁量の充足率が大きくても、柱頭・柱脚の接合を軽くすることはできないことになっています。
床構面と接合部の強度の重要性
以前の建物では壁などの鉛直構面の強度が小さく、地震時にはまずその部分で被害を生じてしまっていたため、結果として横架材接合部に起因する被害は多くはありませんでした。ですが、近年は壁倍率の大きな壁が用いられるようになり、柱頭柱脚接合部などの性能がかなり高くなってきています。そのため、床構面とそれを支える横架材の接合部の強度が重要になりつつあります。
3.鉛直荷重による曲げとたわみ
梁には通常、以下のような複数の荷重が作用します。
- 上部荷重が柱から伝達される集中荷重
- 梁と平行方向に載る間仕切壁の等分布荷重
- 梁と直交方向に載る間仕切壁の集中荷重
- 小梁を受ける集中荷重
- 床荷重としての等分布荷重
- 梁上の耐力壁に作用する柱脚部の軸力
これらの荷重に対する応力を正確に把握するには、連続梁として計算することが望ましいのですが、計算式が非常に複雑であることや、住宅は比較的小規模な構造体であるため、一般には安全側の設計として単純梁で求めることが多いです。 単純梁の計算では、計算式がそれほど複雑ではなく、作用する荷重が複数ある場合でも、荷重ごとに計算して、合算できるメリットがあります。
梁上耐力壁による短期荷重の例
上階の耐力壁が取り付く柱の下に柱がなく、梁で受ける場合には、梁がたわむだけ変形量が大きくなってしまいます。できるだけ下階にも柱を設けるようにしてください
屋根からの荷重の流れ
通常、梁には複数の荷重が作用します。 床梁・大梁には、柱や壁などから集中荷重、等分布荷重、軸力など複数の荷重がかかります。
- 本ページ内の記載事項は、2015年11月現在のものです。仕様変更や商品切替などの理由により、予告なく内容変更になる場合があります。
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- 本ページ内で記載している内容については、当社が施工するすべての住宅に当てはまるものではありません。お客さまのご希望や建築される地域などにより変わることがあります。あらかじめご了承ください。
接合金物の使用義務化の背景
昔の建物では、柱や筋かいの木材同士を加工して組み合わせて、接合する方法が一般的だったんだよ。接合部に金物を使う例が表れてきたのは、昭和40(1965)年代後半のこと。 阪神淡路大震災が発生した平成7(1995)年は、新築の建物で金物の普及が一段落した頃で、震災の被害調査によって改めて接合金物の重要性が指摘されることになったんだ。 そして、平成12(2000)年の建築基準法改正で、壁倍率に見合った金物の使用が義務化されたんだよ。建築基準法は、建物の倒壊をともなう震災のたびに基準の見直しを行って、改正を続けているんだ。