住まいの基礎講座
第2回
地上では常に上から下へと力が加わり、私たちはそれを重さとして感じています。 着ている衣服や、持っている荷物の重さも感じます。また、向かい風の中を歩いているときには、前方から後方へと力が加わり、私たちはその力に抗おうとします。 建物に作用する力にはどのようなものがあり、それらの力は設計の際にどのように考慮されているのでしょう。
1.上から下へとかかる力
上から下へとかかる力を『鉛直荷重』といいます。鉛直荷重には、以下のようなものがあります。
固定荷重
屋根・柱・仕上げ材など、建物を構成している材料そのものの重さです。使用する材料の実情に合わせて設定することが原則ですが、基準法施行令84条には一般的な材料の重さが設定されているので、その値を用いても良いことになっています。
積載荷重
書棚・机・テーブルなどの家具や人など、建物の中にあるものの重さです。建物の実情に合わせて設定することが原則ですが、基準法施行令85条に示されている値を用いても良いことになっています。
鉛直荷重は、このように流れていきます。
すまいえ君のワンポイント解説
『鉛直』というのは、重力が働いている方向のこと。似た言葉で『垂直』というのは、何かに対して直角である、ということで、垂直は重力とは関係ないんだ。
鉛直
垂直
2.水平方向に加わる力
水平方向に加わる力を『水平荷重』といいます。水平荷重には、『地震力』と『風圧力』があります。
地震力
地震力とは、地震で揺れた時にかかる力です。地震力とは、地震で揺れた時にかかる力です。 建物の重さ、高さに比例するので、建物総重量の大きい方が、また、下層階より上層階のほうが、地震の時にかかる力が大きくなります。建物の性能を決める上で、最も重要な外的荷重ともいえます。
重い振り子の方が、揺れ幅が大きくなります。
高い位置にある振り子の方が、揺れ幅が大きくなります。
風圧力
風圧力とは、台風や突風など、強い風を受けた時にかかる力です。 建物が風を受ける面積に比例して大きくなります。一般的に建物の外観は方向によって異なるため、風圧力については抵抗する壁(耐力壁)の配置方向に合わせて、X方向、Y方向の2方向で求めます。
同じ強さの風を受けた時、風を受ける面積が大きいと作用する力は強くなり、
風を受ける面積が小さいと、作用する力は小さくなります。
長期荷重と短期荷重
固定荷重や積載荷重のような、常に、そして長期的にかかり続ける荷重のことを『長期荷重』といい、地震力や風圧力のような、まれに発生する荷重のことを『短期荷重』といいます。
荷重と外力
建築基準法では、重力によって鉛直方向に作用する力を『荷重』とし、それ以外の要因によって鉛直方向以外に作用する力を『外力』として、それぞれを区別する表現を用いています。また、『外力』の中で水平方向に作用する『地震力』『風圧力』については、『水平力』という言葉を用いています。しかしながら力学においては、その方向に関わらず、外から加わる力を『荷重』としており、設計の現場でも『鉛直荷重』に対して『水平荷重』という言葉を用いることが一般的です。 これらのことから、『知って安心 住まいの基礎講座』では、『地震力』『風圧力』については『水平荷重』という言葉で統一し、法令の引用など必要に応じて『水平力』という言葉を使用することとしています。
建物にかかる荷重および外圧
建物にかかる荷重および外圧については、建築基準法施行令第83条で
建築物に作用する荷重及び外力としては、次の各号に掲げるものを採用しなければならない。
一.固定荷重, 二.積載荷重, 三.積雪荷重, 四.風圧力, 五.地震力と定められています。
1.固定荷重について
固定荷重については、施行令84条において、『単位面積当たり荷重(単位:N/㎡)』の欄に定める数値に面積を乗じて計算することができます。
屋根(一般部・屋根勾配5寸の場合)
内壁(1階・2階)
外壁(1階・2階)
板張り床(2階)
2.積載荷重について
積載荷重については、施行令85条で定める数値(単位:N/㎡)に床面積を乗じて計算することができます。
書棚・机・テーブルなどの家具や人
構造計算の対象 | ||||
---|---|---|---|---|
床の構造計算をする場合(N/m2) | 柱、梁、基礎の構造計算をする場合(N/m2) | 地震力を計算する場合(N/m2) | ||
室の種類 | 住宅の居室 | 1,800 | 1,300 | 600 |
事務室 | 2,900 | 1,800 | 800 |
3.地震力について
実際の地震では地面が揺れますが、建物の計算を行う場合には便宜上、地震が揺れるのではなく、建物に水平力が働くものとして考えます。
地震力の流れ
地震力は各階の床面の重心位置に働くと仮定しているため、その力は床板などから各通りの耐力壁に床構面を通して均等に分配され、下階に流れていきます。 具体的には、屋根面に働く水平力は、野地・垂木・母屋から軒桁・小屋梁に流れ、耐力壁へと伝達されます。耐力壁の脚部からは、さらに下階へ水平力が流れるため、最下階は、上部の各階に作用する水平力全体を支える必要があります。
建物の重量の合計
1階部分の地震力用重量は、1階壁の上半分より上方すべての建物の重量の合計です。このとき、バルコニーや庇などがある場合には、その重量も建物重量に加えます。
地震力の計算
地震力
:最上部から当該階までの全重量:地震層せん断力係数(次式で計算する)
ここで各変数は以下のとおり。
:地震地域係数(昭55建告1793号で定められた地域ごとの値) :振動特性係数(建物の固有周期Tと地盤の種類によって、昭55建告1793号第2に示された計算で与えられる数値。高さが13m以下の木造住宅の場合は、後述するTの値が0.4以下となるため、必ずとなる)
:層せん断力分布係数。以下に示す昭55建告1793号第3で定められた式により算定する。
ここで、は、i階より上の全重量を1階より上の全重量で除した値で、=最上部から当該階までの重量の和/地上部の全重量 となる。
:建物の固有周期で、(昭55建告1793号第2)
ここで、hは当該建築物の高さ。勾配屋根(切妻屋根、寄棟屋根等)では、建物最高軒高と建物最高高さの平均高さをとる。
:標準せん断力係数(令88条第2項により、0.2以上とする。ただし、特定行政庁により著しく地盤が軟弱と指定された地域[第3種地盤]では、0.3以上とする)
- :地震力
- :加速度
- :重力加速度
- :建物重量
4.風圧力について
地震力は建物重量に対して求めるため、X方向、Y方向で同じ値となっていましたが、建物の外観は一般にX方向とY方向では異なるため、風圧力については見付面積を方向ごとに求めなければなりません。その際、Y方向の見付面積が受ける風圧力を支えるのはX方向の耐力壁、X方向の見付面積が受ける風圧力を支えるのはY方向の耐力壁となるので注意してください。
風圧力の計算
風圧力
:見付面積:速度圧(次式で計算する)
[N/m²] ここで、
:平均風速の鉛直分布を表す係数
:建物最高軒高と建物最高高さの平均
、:地表面粗度区分の高さ(m)
:構造骨組みガスト影響係数(下記表参照)
:基準風速(m/s)
構造骨組みガスト影響係数
地表面粗度区分 | ||||
---|---|---|---|---|
I | 250 | 5 | 0.10 | 2.0 |
II | 350 | 5 | 0.15 | 2.2 |
III | 450 | 5 | 0.20 | 2.5 |
IV | 550 | 10 | 0.27 | 3.1 |
:閉鎖型、開放型の外圧係数
:閉鎖型、開放型の内圧係数。住宅の場合、としてもよい。
壁面のCpe値における、Kzは以下により求める。
:計算する部分の地盤面からの高さ[m]で、軒高または胴差高さ
速度圧と風圧力
速度圧というのは、空気の速さで生まれる圧力のことです。 風力係数は、建物の形状による割増・割引係数のことで、建物形状や屋根勾配で決まります。大きな吹き抜けのある壁面があると、外壁や屋根面が受けた風圧力を床構面を介して耐力壁に伝達しにくいため、耐力壁線で挟まれた区画ごとに分割して風圧力を算定し、検討しなければなりません。
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『積雪荷重』について
鉛直荷重には、屋根に積もった雪の重さが建物に作用する『積雪荷重』という力もあるんだ。積雪荷重は、多雪区域では長期荷重、それ以外の区域では短期荷重に位置付けられていて、その取り扱い方が異なっているんだよ。