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0さんご家族のお宅にお邪魔したのは、5月のよく晴れた土曜日。
午後からは暑くなりそうな予感を感じながら、ご住所を頼りに世田谷区の閑静な住宅街で見つけたのは、玄関の前に立っただけで、落ち着きを感じる和の家でした。お子さんの進学を機に建てられたというこの家は「ずっと日本家屋に住みたかった」と語るご夫妻の、京都に暮らしていた経験が、イメージの原点になっているそうです。

格子戸を開けると、どこか懐かしさのあるアンティークな和の照明が出迎えてくれる玄関。1階は檜、2階は杉の木と木材そのものを使い分けたという屋内は、部屋ごとに襖画を変えるだけでなく、引手など、建具一つひとつにもご自身で納得のいくまで探し、こだわったとのこと。この想いを実現するため、検討した設計・施工会社は20社にもなるのだとか。『特に日本建築を勉強したわけではないんです。自分の好きなもの、良いと思うものを選んだだけ』とご主人は語るが、それぞれが異なる素材を使いながらも、ちぐはぐな印象にならず、調和を感じさせてくれるのは、日本人のもっている『和の勘所』。音大を目指しているというご長男の弾くピアノの音色も、庭の木の葉のゆれる音と相まって、家に馴染んでいるから不思議です。

この建物を彩る庭の植栽も、すべてご自身で選び、実際に購入してきて植えたものも多いのだとか。『その辺で手に入るものばかり』と話されるが、玄関から庭へと続く樹々は、日本の気候に馴染んだ原種ばかり。あえて高さの違う植物が混在した様子は、どこか里山を思わせます。もちろん剪定もご主人がされるとのこと。さらに庭を奥へと進むと、そこは奥さまが育てているという小さな畑。この里山を思わせる庭から、畑へと続く流れは、まるで日本人の原風景を凝縮したようです。

そして、畑の隣の軒下には、庭仕事の休憩にちょうどいい縁側があり、ピール作りでしょうか、果実の皮が干してあります。『この庭では、畑だけでなく、木にも色々となるんです。最近ではヤマモモを摘んでジャムを作ったんですよ』と奥さま。自宅で採れた果実や野菜で食卓を囲むご家族の姿が浮かぶようです。
庭から畑、そして縁側へ、その先には『いつも家族が集まる』というお茶の間がある。障子を開ければ風通しがよく、襖を開ければ家族と繋がる。たとえ一人で部屋にいても、どこか緑と家族の気配が感じられる日本家屋の心地よさは、小学校に通うお嬢さまにとっても安心でしょう。 この家は心の繋がりを大切にされるご家族のあり方のようにも感じられました。