#031金継ぎで、つぎへつなぐ。
うるしさん
大切な器を割ってしまった……。そんな時は、壊れた器を捨ててしまう前に「金継ぎ」という選択肢を考えてみませんか。「金継ぎ」とは、割れてしまった陶磁器を、漆を用いて修復する技法のこと。日本の伝統工芸のひとつであり、古くは縄文土器でも金継ぎの技法が用いられていたことがわかっています。
今回そんな金継ぎの魅力について教えてくださったのは、坂本恵実さんと村田優香里さんの二人組ユニット「うるしさん」。お二人は、世田谷区にあるものづくり工房「ものことwithダイタデシカ」を窓口として、器の金継ぎ依頼を受けていらっしゃいます。
「金継ぎといえば、金粉を使った高級なものという印象があるかもしれませんが、実は金粉は装飾のひとつに過ぎません。金継ぎのメインとなるのは、小麦粉や砥の粉に生漆を混ぜたもので割れや欠けを埋めていく“下地作り”のほう。下地を塗っては乾くのを待ち、削ってはまた塗って、というのをひたすら繰り返していきます。漆には独自の性質があり、塗った時からさらに1年ほどかけて徐々に強度が上がっていくんですよ」と村田さん。
下地作りの後、仕上げの塗りの作業に入ります。「仕上げは装飾なので、お客様に自由に選んでいただける部分です」と坂本さん。「金粉以外にも、銀粉や色漆などを用いて様々な色合いに仕上げることができます。マットな質感がお好みであれば、地の粉を蒔いた仕上げもおすすめです」。
お二人のもとには日々たくさんの器が集まってくるそうですが、村田さん曰く、それらは決して高級品ばかりではないといいます。
「お子さんが初めて使ったお茶碗、何十年と愛用して茶渋が染み付いたマグカップなど、いろんなストーリーの詰まったものが多いです。きっと特別な愛着があるものなんだろうな、と思いが伝わってきます」。
そんな持ち主の思いをしっかり受け止めつつも、「そこに私たちの思いは乗せず、あくまで修理に徹することを大切にしています」と坂本さん。「基本の作業を丁寧にやって、素直に修復する。結果としてその器をさらに長く使っていただけたらそれだけで嬉しいです。でも不思議なことに、ものを修復する行為ってとても心穏やかになるんです」。
村田さんも「海外では破損部を目立たなくする修復技法が多い中、傷をそのまま活かす金継ぎって面白いなと思います。金継ぎという思い出が加わった器は、一層愛おしく感じるのではないでしょうか」と語ってくださいました。
うるしさんに金継ぎをお願いする場合、破片がなかったりヒビが入っているものでも大丈夫。大切なその器に、新たな命を吹き込んでみましょう。
金継ぎができるもの・できないもの
器にも様々な素材がありますが、本漆による金継ぎができるのは陶磁器のみ。「ガラスは本漆との相性が悪く、塗ってもはがれてしまいます。本漆を使わなければ、ガラスの器でも修理することはできますが、私たちが金継ぎを請け負っているのは、本漆との相性がいい陶磁器に限定しています。陶磁器なら、ワレ・カケ・ヒビ、何でも対応できますので、お気軽にご相談いただければと思います。食器に限らず、人形や照明器具なども修理できますよ」と坂本さん。器が割れたり欠けたりした際の破片は取っておいて、一緒に持っていきましょう。一部の破片がなくても、漆を使ったペーストで欠けた部分を埋めることができるそうですので、あきらめずに相談してみてください。
色とりどりの仕上げ選び
金継ぎの仕上げとなる塗りの色選びは、器の持ち主としては最も楽しみな工程かもしれません。うるしさんに依頼した場合、定番の金粉、銀粉をはじめ、絵の具のように色とりどりの漆の中から選ぶことができるそう。「ベースとなる生漆はもともと乳白色です。空気に触れることで茶褐色になり、そこに鉄の粉を混ぜると黒色に、ベンガラと呼ばれる赤錆から作られた顔料を混ぜると赤褐色になります。ほかにも、黄色や朱色などの顔料を使うことで、様々な色の漆をつくることができます。お子さんの器には黄色など明るめの色が似合うので人気ですよ」と村田さん。好みや器とのコントラストを考えながら、仕上げ選びを楽しんでみましょう。
取材協力:うるしさん
同じ大学で漆工芸を学んだ坂本恵実さんと村田優香里さんが2014年にユニットを結成。「楽しくうるしと。」をコンセプトに、漆をより身近に感じてもらうことを目指して、漆作品の製作や金継ぎの活動をしていらっしゃいます。現在金継ぎは「ものことwithダイタデシカ」店主の南秀治さんが窓口となっており、見積もりをはじめ様々な相談に乗ってくれるそうです(要予約)。
写真はものことwithダイタデシカ。
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