住まいの基礎講座

第6回

建物にかかる鉛直荷重や水平荷重は、柱や梁などの構造部材を通して地盤へと伝わっていきます。つまり、建物を設計するということは、建物にかかる荷重をバランスよく受け止め、きちんと地盤へ伝える構造体を設計するということでもあります。最終回では、耐力壁が有効に働くための床と、建物と地盤をつなぎ、建物にかかる荷重を地盤へと伝える働きを担う基礎についてお話ししたいと思います。

建物が水平荷重に抵抗するためには、建物ごとに算出した耐力壁の量とその配置バランスが重要であることは、これまでお話ししてきた通りです。 なお、建物に必要な耐力壁の量を算出するにあたっては、以下のような前提条件があります。

  • 耐力壁両端の柱の接合部が、耐力壁そのものより先に壊れないこと。
  • 床などの水平構面が、耐力壁に比べて十分に硬いこと。

どれだけ壁を強くしても、壁の接合部や壁を支える床が壁よりも先に壊れてしまっては意味がないからです。

床や屋根のことを『水平構面』と呼びます。 水平構面は、人や家具などの重量を支え、柱や壁に力を伝達する役割のほかに、地震力や風圧力など、建物に加わる水平荷重を下階の耐力壁に伝える役割があります。

建築基準法が施行された当初は、床の水平構面の硬さについてはあまり重要視されておらず、床は鉛直荷重を支えるもの、という位置づけでした。ところが近年、高倍率の耐力壁を採用することが増えてきたことにより、相対的に床の水平構面の硬さが不足するようになりました。そうした建物では、壁が壊れる前に床が壊れてしまう可能性があります。

床の水平構面が変形しないように固める方法として、建築基準法施行令では、床組及び小屋梁の隅角部に火打材の設置を求めています(構造計算をして安全を確認した場合は火打ち材がなくてもよい)。また現在では、構造用合板等を横架材の隅角部に釘打ち等で固定した場合も、火打材とみなすように運用がなされています。ただし、火打材をどの程度設置すればよいかについての指標は、建築基準法施行令には例示されていません。

火打材の設置個所例

火打材の設置個所例

火打材と同等とみなせる床構面の例

火打材と同等とみなせる床構面の例

床構面の硬さを具体的に検討する方法としては、性能表示制度による計算があります。この計算では、壁倍率と同様に床組の仕様に応じて『床倍率』が定義されており、その倍率によって床の硬さが示されています。

すまいえ君のワンポイント解説

建築基準法が求める耐震性能

『最低の基準』を定めている建築基準法で、大地震に対して求めている目標性能は『大きな損傷は受けても倒壊は免れる』という程度なんだ。でも、耐震性能への関心が高まるにつれて、『阪神淡路大震災でも大丈夫な住宅』『地震後にも使い続けることのできる住宅』が望まれるようになってきたことから、設計の現場では余裕を持った壁量を確保するなどの対応を進めているんだよ。

柱や梁などの構造部材によって伝達される鉛直荷重や水平荷重を地盤に伝え、建物を支える役割を担っているのが基礎です。少々難しい表現になりますが、基礎の設計は、以下の項目をもとにして行います。

  • 基礎の接地圧(基礎底盤と地盤の間に作用する力)
  • 地盤の許容応力度(長期に生じる力に対してどの程度耐えることができる地盤であるのかを、地盤調査により計測)

地盤の許容応力度とそれに応じた基礎の種類別仕様については、告示によって規定されています。主に住宅で採用されているのは『布基礎』『べた基礎』で、地盤に起因する一部の例外を除いては、いずれも一体の鉄筋コンクリート造とすることが定められています。

建物と地盤をつなぐ基礎

布基礎とべた基礎の違いは、基礎と地盤との接地面積の大きさです(イラストの黄色の部分)。 布基礎は接地面積が小さく、べた基礎は接地面積が大きくなっています。接地面積が大きくなると、荷重が分散されて接地圧が小さくなります。 一方、地盤の沈下のしやすさを表す変形性能は、底盤幅の二倍の深さまで作用するため、底盤幅の大きいべた基礎は、力が作用する面積・深さともに大きくなります。ですから、地盤調査によって地盤の状態を確認した上で、どちらの基礎が適しているかを総合的に判断する必要があります。

変形性能が作用する範囲

布基礎の場合

建物と地盤をつなぐ基礎
基礎の底盤幅Dの2倍の深さまで応力が作用します

べた基礎の場合

建物と地盤をつなぐ基礎
すまいえ君のワンポイント解説

接地面積と接地圧

たとえば田んぼの上を歩く時、ハイヒールよりも長靴を履いている方が沈みにくくて歩きやすいよね。ハイヒールに比べて靴底が大きい長靴では、靴底と地面が接する接地面積が大きくなることで荷重が分散されて、接地圧が小さくなるからなんだ。

接地面積と接地圧

接地面積と接地圧について、ちょっと面白い計算をしてみましょう。

延べ床面積105.99m²の、以下ような木造2階建ての戸建住宅を想定してみます。 屋根、外壁、内壁、床、基礎の重量を算出して合計すると、建物総重量は約70トンになります。これを基礎の底盤面積(=53m²)で割り、1m²あたりの接地圧を求めると、およそ13kN/m²(1.3t/m²)になります。 (建物総重量の算出については、プロフェッショナルノートにその内訳を掲載していますので、参考にしてみてください。)

木造2階建ての戸建住宅例
木造2階建ての戸建住宅例
  • 屋根:瓦屋根
  • 外壁:モルタル
  • 内壁:石膏ボード
  • 基礎:べた基礎
  • 床面積:7.28m×7.28m 53m2
  • 建物総重量 720kN
  • 耐圧盤面積 53m2
  • 基接地圧:

では、この13kN/m²の接地圧とは、どのような数値なのでしょうか。立っている人と比べてみましょう。 体重65kg、足の接地面積を25cm×20cm程度の人物だと仮定し、同様に計算すると、 接地圧は1.3t/m² 13kN/m2

人物の接地圧例
  • 体重:65kg
  • 足のサイズ:25cm
  • 靴底面積:0.25mx0.2m 0.05m2
  • 接地圧: = 1,300kg/m2
  • 13kN/m2

接地圧で比較すると、建物と人は大体同じになる事がわかります。これは、前述のように田んぼの上を歩く時、ハイヒールよりも長靴の方が歩きやすいのと同じで、住宅では接地面積が大きいことで荷重が分散され、接地圧が小さくなることによるものです。

この数字を見て、「住宅というのは、思ったほど重いものでもないんだなあ」と思われたでしょうか? 地震や突風を受けた時、人間は筋肉や関節を動かしたり足の位置を変えたりすることで、荷重を吸収したり逃がしたりして倒れないようにしています。 一方、柱や梁の接合部が緊結された構造体となって地盤にしっかりと固定されている住宅では、水平荷重がかかった時に人間のように動くことはできず、耐力を超えた後は壊れてしまうことになります。 建物のどこにどれだけの重量があり、どれだけの荷重がかかると想定されるのか、その荷重に耐えるためにはどのような方法でどれだけの耐力を持たせておく必要があるのか。住宅の設計・施工の現場では、一棟ごとに、様々な法規制や基準、条件などをもとにして構造計算を行っています。

さらに詳しく知りたい方へ 構造設計プロフェッショナルノート

床の強度・剛性は、木造住宅の耐震性能を評価する上で、非常に重要です。特に近年、その役割は高まっているといってもよいでしょう。その理由として、以下の4点をあげることができます。

  1. 壁量設計・偏心の確認は床が剛を前提としていること
  2. 耐力壁の倍率が高まったこと
  3. 吹抜けを設ける住宅が増えたこと
  4. 様々な仕様の床を用いるようになったこと

それぞれについて、もう少し詳しくご説明します。

壁量設計は、床が壁と一体に変位することで、水平荷重が耐力壁の強さに比例して分配されます。床の剛性が低いと、床が部分的に変形したり、ねじれたりします。そうなると、一部の耐力壁に地震力が集中し、その耐力壁のみが大きく変形したり、接合部に過大な力が加わるなどして、耐力壁に期待されていた耐震性能を発揮することができなくなります。

かつては、耐力壁といえば単独の筋かいの場合がほとんどで、壁倍率はせいぜい2程度でした。これであれば、根太に板材を載せただけの剛性の低い床でもさほど大きな問題はなく、構造用合板を釘打ちした床であれば、それだけで壁よりも強度・剛性の高い床とすることができました。 ところが昨今は、筋かいと構造用合板を組み合わせたものや、単独でも高い倍率を持つものなど、壁倍率4〜5の耐力壁を用いることが増えています。そのため、従来の床仕様では相対的に床の強度が不足し、壁が壊れる前に床が壊れる可能性が出てきています。

最近では、階段と吹抜けを連続させたり、リビングの一部に大きな吹抜けを設けたりするなど、空間の変化を楽しむ住宅が増えています。 たとえば右の図のように、平面の中央に吹抜けをつくると、床が大きく2つに分かれ、中央で連結されているような水平構面になることがわかると思います。このような場合、繋がっている部分の床は、左右を一体化させるような十分な剛性を確保する必要があります。

人物の接地圧例

木造軸組構法の住宅には、複数の床の仕様が混在することがあります。たとえば和室と洋室があれば床のレベルや仕様が異なることもありますし、根太に荒板敷を採用した和室の場合、床剛性が著しく異なる可能性があります。そのような場合でも、水平構面として十分な性能が確認できなければなりません。また、最近の都市部では、根太を用いない構法が主流になりつつあります。

建築基準法施行令46条3項では、床組および小屋梁の隅角部に火打材の設置を求めています。ただし、構造計算をして安全を確認した場合はその限りではありません。

火打材を設置する目的は、床水平構面が変形しないように固めることです。 かつてのように、玉石基礎に柱が直接載っていたり、床下地の板を根太に載せているだけで固定しない構法には火打材が必要でしたが、基礎をコンクリートでつくり、アンカーボルトで土台を固定したり、床下地を構造用合板として床に釘打ちする構法が普及した現在では、これまでの火打材は必ずしも必要ではないのが現状です。しかしながら、施行令では本文中で火打材の設置を求めていますので、構造計算をしない限り、火打材を省略できないのが現状です。

一級建築士 齊藤年男

火打材の現状

現在、火打材は軸材には限らないという考え方があり、構造用合板等を横架材の隅角部に釘打ち等で固定した場合も火打材とみなすように運用がなされています。ただし、火打材をどの程度設置すればよいかについての指標は、施行令には例示されていません。

床構面の硬さを具体的に検討する方法としては、性能表示制度による計算があります。この計算では、床組の仕様に応じて『床倍率』が定義され、倍率によって床の硬さが示されています。鉛直構面の耐力壁同様に軸材系と面材系に分かれ、これらの耐力は合算することができ、床倍率が大きいほど硬い床ということができます。

軸材系水平構面

火打材や水平ブレース。火打材は筋かいとは違い、水平構面にランダムに配置されるため、火打材1本当たりの負担面積で倍率が計算されます。

面材系水平構面

構造用合板やスギ板を横架材に釘打ちした構面など。面材と釘・根太形式によって倍率が異なります。

基礎の設計は、平12建告第1347号で規定されている通り、地盤の支持力(許容応力度)をもとに行います。布基礎とべた基礎の概要は以下の通りです。

  1. 一体の鉄筋コンクリート造とします。(地盤の長期に生ずる力に対する許容応力度が70kN/m²以上かつ密実な砂質地盤その他著しい不同沈下を生ずるおそれのない地盤にあり、基礎に損傷を生ずるおそれのない場合には無筋コンクリート造とすることができます。)
  2. 木造等の建築物の土台の下には連続した立ち上がり部分を設けます。
  3. 立ち上がり部分の高さは地上部分で30cm以上、立ち上がり部分の厚さは12cm以上、底盤の厚さは15cm以上とします。
  4. 根入れ深さは24cm以上かつ凍結深度以下とします。(基礎の底部が密実で良好な地盤に達して雨水等の影響を受けるおそれのない場合を除く)

地盤の許容応力度と底盤の幅(基礎ぐいを用いた場合以外)

地盤の長期に生ずる力に対する許容応力度
30kN/m2以上50kN/m2未満50kN/m2以上70kN/m2未満50kN/m2以上70kN/m2未満
底盤の幅
(単位:cm)
木造等の建物平屋建て302418
2階建て453624
その他の建築物604530
※横スクロールで表を確認いただけます。

布基礎配筋例

布基礎配筋例図版

※大橋好光 齊藤年男、『木造住宅設計者のための構造再入門』P82、日経BP社、2007より転載

  1. 一体の鉄筋コンクリート造とします。 (地盤の長期に生ずる力に対する許容応力度が70kN/m²以上かつ密実な砂質地盤その他著しい不同沈下を生ずるおそれのない地盤にあり、基礎に損傷を生ずるおそれのない場合にあっては無筋コンクリート造とすることができます。)
  2. 木造等の建築物の土台の下には連続した立ち上がり部分を設けます。
  3. 立ち上がり部分の高さは地上部分で30cm以上、立ち上がり部分の厚さは12cm以上、底盤の厚さは12cm以上とします
  4. 根入れ深さは12cm以上かつ凍結深度以下とします。 (基礎の底部が密実で良好な地盤に達して雨水等の影響を受けるおそれのない場合を除く)

鉄筋コンクリート造とする場合

立ち上がり部の主筋 異形鉄筋12mm以上を立ち上がりの上下端に1本以上設置。補強筋と緊結
立ち上がり部の補強筋径9mm以上の鉄筋を間隔30cm以下で縦に設置
底盤補強筋径9mm以上の鉄筋を間隔30cm以下で縦横に設置
換気口周辺を径9mm以上の鉄筋で補強
※横スクロールで表を確認いただけます。

べた基礎配筋例

布基礎配筋例図版

※大橋好光 齊藤年男、『木造住宅設計者のための構造再入門』P82、日経BP社、2007より転載

一級建築士 齊藤年男

基礎の設計は余裕を持って

国土交通省告示では最低限守らなければならない基礎の仕様が例示されています。例えば異形鉄筋に径が12mmという規格はありませんので、実際にはD13が最低仕様となります。基礎は建物の重量を地盤に伝える重要な役割をしていますので、余裕を持った仕様を心がけましょう。

前述の、接地面積と接地圧の計算で使用した建物の総重量計算の詳細は、以下の通りです。

木造2階建ての戸建住宅例
木造2階建ての戸建住宅例

屋根:瓦屋根 / 外壁:モルタル / 内壁:石膏ボード / 基礎:べた基礎

屋根重量屋根重量屋根重量屋根重量屋根重量屋根重量
矢印

建物総重量=702,190[N] 702[k/N] (❶ + ❷ + ❸ + ❹ + ❺ + ❻)基礎底盤面積あたり 702,190÷53=13,248[N/m2] 13[kN/m2]

  • 本ページ内の記載事項は、2016年2月現在のものです。仕様変更や商品切替などの理由により、予告なく内容変更になる場合があります。
  • 本ページに掲載しておりますイラストや写真はパソコンの環境により、実際のものと形状・色が異なるように見える場合がございます。
  • 本ページ内で記載している内容については、当社が施工するすべての住宅に当てはまるものではありません。お客さまのご希望や建築される地域などにより変わることがあります。あらかじめご了承ください。