住まいの基礎講座
第3回
住宅の性能を決める上で、最も重要な外からの荷重が、水平方向に作用する地震力です。 建築基準法においては、最低限満足させなくてはいけない耐震性能が定められ、さらに高い耐震性能については、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)の住宅性能表示制度の中で、3段階の性能(耐震等級)が規定されています。
「木造住宅を建てるときの構造関係の法律」について詳しくはこちら
在来構法の住宅が、どのようにして地震力や風圧力といった水平荷重に抵抗しているのかを見ていきましょう。
1.剛性と耐力
水平荷重に抵抗する建物をイメージするために、マッチ箱を使ってみましょう。 外箱に中箱が入っている状態のマッチ箱は、横から力を加えても簡単には潰れませんが、中箱を取り出した外箱に横から力を加えると、難なく潰れてしまいます。外箱の紙に厚みを持たせて固くしても、外箱だけではやはり潰れてしまいます。なぜでしょう。
マッチ箱の外箱は簡単に潰れるけれど……
中箱が入っていると簡単には潰れません
この場合、中箱はマッチ箱の剛性を高める働きをしています。特に、中箱の短手方向の側面が重要です。 剛性とは、物体が外力を受けた時の変形のしづらさ(かたさ)のことで、変形が小さいことを『剛性が高い』、変形が大きいことを『剛性が低い』といいます。
変形量が大きい=剛性が低い
変形量が小さい=剛性が高い
中箱と組み合わせて剛性を高めたマッチ箱も、さらに強い力をかけていけば、やがて壊れてしまいます。物体が外力を受けた時の抵抗力(強さ)のことを『耐力』といい、大きな力に耐えられることを『耐力が大きい』といいます。
建物が水平荷重に抵抗する要素は、『剛性』と『耐力』の組み合わせで考えられています。壁には、強くても一気に壊れる壁や、強さはあまりなくても変形しながら最後まで壊れない壁などがあります。 これらを効果的に組み合わせる事で、強くて粘りのある建物を設計することができるのです。
2.耐力壁の種類と壁倍率
建築基準法や品確法の仕様規定では、地震力や風圧力に抵抗する壁が例示されており、それらを一般に耐力壁と呼んでいます。耐力壁は主に『筋かいを入れた軸組』と『面材耐力壁』の2種類で、そのほかに伝統的な土塗り壁や落とし込み板壁のうち、法律で決められた仕様としていたものなどが、建築基準法施行令46条ならびに建設省告示第1100号に多数例示されています。 それ以外にも、同様の性能があるものとして、建材メーカーや販売会社において、独自に国土交通大臣の認定を取得しているものがあります。
柱と柱の間に筋かいを入れると、その部分は耐力壁になります。
面材耐力壁は、横架材と柱に囲まれた面に、構造用合板や パーティクルボードなどの面材を釘打ちしたものです。
柱と柱の間に筋かいを入れると、その部分は耐力壁になります。
面材耐力壁は、横架材と柱に囲まれた面に、構造用合板や パーティクルボードなどの面材を釘打ちしたものです。
耐力壁の強さは、軸材の大きさや面材の厚さ、釘の長さ・太さ・打つ間隔など、仕様によって異なります。この強さのことを『壁倍率』といい、仕様ごとの壁倍率も建築基準法で定められています。壁倍率の数値が大きいほど、その壁は大きな水平力を負担できることになります。 地震や台風によって倒壊しないようにするために、その建物が受けることになる地震や風による荷重を、建物の大きさや形など、複数の要素から計算します。そして、その荷重に抵抗するために必要な耐力壁の量を算出して、バランスよく配置しなくてはなりません。
1.耐力と剛性
下の図は、水平加力試験による、耐力壁試験データのグラフ例です。試験体Aと試験体Bの試験結果を比較した場合、最大荷重(耐力)は同じでも、変形のしにくさは異なります。変形のしにくさを『剛性』といい、変形しにくいAほど『剛性が高い』といいます。
2.水平荷重に抵抗する鉛直構面
構造計算では、壁倍率が指定されている耐力壁はもちろん、性能表示制度上で規定されている準耐力壁や垂れ壁・腰壁も耐力要素とすることができます。鉛直構面を検討するには、以下の耐力を考える必要があります。
許容耐力
耐力要素が負担することのできる水平力の上限値で、最大耐力や特定変形角時の耐力など4つの指標から計算された値のうちの最小値とされています。法律等で壁倍率が決められている耐力壁や準耐力壁については、この指標から 『壁倍率×1.96kN×壁長さ』 で許容耐力を求めることができます。
必要耐力
建物に作用する地震力や風圧力といった水平荷重によって、建物に生じる水平力を必要耐力といいます。検討にあたっては、地震力と風圧力のうち、いずれか大きい値が必要耐力となります。
耐力壁の剛性割合
建物に作用する水平荷重は、床構面を通して耐力要素のある壁通りに伝達されます。耐力要素のある壁通りは間取りによって左右されるため、必ずしも等間隔に並んでいません。計算では、建物全体にかかる水平荷重を壁通りにある耐力壁の剛性割合で分配することとしています。各通りにある耐力要素の許容耐力の合計が、分配された水平荷重(必要耐力)より上回っていればよいことになっています。
3.耐力壁の種類と壁倍率
耐力壁として有効なものは、建築基準法施行令46条(施行令第46条)ならびに建設省告示第1100号(昭56建告第1100号)に例示されているほか、国土交通大臣の認定を取得したものを用いることができます。 以下に代表的な耐力壁を示します。
(1)施行令第46条に規定された軸組の種類(施行令第46条より抜粋)
軸組の種類 | 倍率 | |
---|---|---|
(一) | 土塗壁又は木ずりその他これに類するものを柱及び間柱の片面に打ち付けた壁を設けた軸組 | 0.5 |
(二) | 木ずりその他これに類するものを柱及び間柱の両面に打ち付けた壁を設けた軸組 | 1.0 |
厚さ1.5cm以上で幅9cm以上の木材又は径9mm以上の鉄筋の筋かいを入れた軸組 | ||
(三) | 厚さ3cm以上で幅9cm以上の木材の筋かいを入れた軸組 | 1.5 |
(四) | 厚さ4.5cm以上で幅9cm以上の木材の筋かいを入れた軸組 | 2.0 |
(五) | 9cm角以上の木材の筋かいを入れた軸組 | 3.0 |
(六) | (二)から(四)までに掲げる筋かいをたすき掛けに入れた軸組 | (二)から(四)までのそれぞれの数値の2倍 |
(七) | (五)に掲げる筋かいをたすき掛けに入れた軸組 | 5.0 |
(八) | その他(一)から(七)までに掲げる軸組と同等以上の耐力を有するものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの | 0.5から5までの範囲内において国土交通大臣が定める数値 |
(九) | (一)又は(二)に掲げる壁と(二)から(六)までに掲げる筋かいとを併用した軸組 | (一)又は(二)のそれぞれの数値と(二)から(六)までのそれぞれの数値との和 |
(2)昭56建告第1100号に規定された耐力壁(昭56建告第1100号より抜粋、一部省略)
材料 | 釘打ちの方法 | 倍率 | ||
---|---|---|---|---|
釘の種類 | 釘の間隔 | |||
(一) | 構造用合板(構造用合板の日本農林規格に規定するもので、厚さが5mm以上のもの、屋外壁にあっては7.5mm以上) | N50 | 15cm以下 | 2.5 |
(二) | パーティクルボード(JISA5908-1994に適合するもので厚さが12mm以上のものに限る)又は構造用パネル(構造用パネルの日本農林規格に適合するものに限る) | 2.5 | ||
(三) | ハードボード(JISA5907-1977に定める450又は350で厚さが5mm以上のものに限る) | 2.0 | ||
(四) | 硬質木片セメント板(JISA5417-1985に定める0.9Cで厚さが12mm以上のものに限る) | 2.0 | ||
(五) | 炭酸マグネシウム板(JISA6701-1983に適合するもので厚さが12mm以上のものに限る) | GNF40又は GNC40 | 2.0 | |
(六) | パルプセメント板(JISA5414-1988に適合するもので厚さが8mm以上のものに限る) | 1.5 | ||
(七) | せっこうボード(JISA6901-2005に適合するもので厚さが12mm以上のものに限る) | 0.9 | ||
(八) | シージングボード(JISA5905-1979に定めるシージングインシュレーションボードで厚さが12mm以上のものに限る) | SN40 | 1枚の壁材につき外周部分は10cm以下、その他の部分は20cm以下 | 1.0 |
(九) | ラスシート(JISA5524-1977に定めるもののうち角波亜鉛鉄板の厚さが0.4mm以上、メタルラスの厚さが0.6mm以上のものに限る) | N38 | 15cm以下 | 1.0 |
耐力壁とみなせる壁
筋かいの寸法さえ守れば、どこに取り付けても所定の壁倍率として計算していいわけではありません。基準法には細かく規定されていませんが、以下の例を参考にして適切な設定をしてください。
筋かい
柱間隔の寸法は一例で、筋かいの入る柱間隔は910mm〜1820mmの範囲を目安としましょう。
面材
連続する耐力壁は間柱や受け材で面材を継ぎ足して、 一続きの耐力壁とすることが出来る。
耐力壁とはみなせない例
以下のような例は耐力壁とはみなせません。ただし、構造用合板等で建材メーカーや販売会社にて独自に国土交通大臣の認定を取得しているものは、認定書に記載された仕様を遵守することで、指定された壁倍率を使うことができます。
筋かい
筋かいの上部(又は下部)に横架材(又は基礎)がない場合
幅が狭すぎる場合
面材
面材が横架材に 達していない
面材の幅が狭すぎる
開口部のある壁
- 本ページ内の記載事項は、2015年10月現在のものです。仕様変更や商品切替などの理由により、予告なく内容変更になる場合があります。
- 本ページに掲載しておりますイラストや写真はパソコンの環境により、実際のものと形状・色が異なるように見える場合がございます。
- 本ページ内で記載している内容については、当社が施工するすべての住宅に当てはまるものではありません。お客様のご希望や建築される地域などにより変わることがあります。あらかじめご了承ください。
必要な耐力壁の量の確保
大きな窓や大きな開口部を設けて、壁の量が少なくなってしまうような時には、壁倍率の高い耐力壁を採用したりして、建物全体で必要な壁の量を確保するように工夫しているんだよ。