住まいの基礎講座

第5回

ここまで、建物は地震力や風圧力といった水平荷重を受けること(第2回)、水平荷重には鉛直構面の耐力壁で抵抗すること(第3回)、耐力壁の軸組とその周辺部材は緊結しておく必要があること(第4回)などをお話ししてきました。 今回は、安全な量の耐力壁を配置する際の考え方と、軸組を強化して耐力要素とする筋かいについて、お話ししたいと思います。

建築基準法施行令第46条では、下記のように規定されています

構造耐力上主要な部分である壁、柱及び横架材を木造とした建築物にあっては、すべての方向の水平力に対して安全であるように、各階の張り間方向及びけた行方向に、それぞれ壁を設け又は筋かいを入れた軸組を釣合い良く配置しなければならない。

これは、木造建築物において、耐力壁を用いて地震や風圧に抵抗するよう定めているものです。 建物は一棟一棟、大きさや形状、重量、立地などが異なりますから、個々の建物ごとに固定荷重、積載荷重、地震力、風圧力を計算し、必要な壁量を算出しなくてはなりません。建物の大きさや形状が異なれば、固定荷重、積載荷重といった長期荷重が異なります。また、地震力、風圧力の受け方も異なります。 この計算を『壁量計算(へきりょうけいさん または かべりょうけいさん)』といい、計算方法は建築基準法によって定められています。壁量計算が日本の住宅の耐震性の向上に果たした役割は、計り知れません。 近年の地震では、しばしば「新しい建物には被害は少ない」と報道されることがありますが、これは壁量計算の成果といえます。

地震時には、上階ほど揺られる傾向があります。

地震時には、上階ほど揺られる傾向があります。

壁の片寄りは、建物にねじれを生じやすくなります。

壁の片寄りは、建物にねじれを生じやすくなります。

壁量計算では、壁の量だけでなく配置も確認します。耐力壁の配置が悪いと、部分的にねじれやゆがみなどの大きな変形を生じることになるからです。建築基準法では、建物のねじれやすさを確認する方法についても規定されています。 耐力壁が片寄っている建物に水平力が加わると、ねじれながらゆがむ変形が発生します。

ねじれながらゆがむ変形

筋かいは、柱と土台・胴差などの横架材に囲まれた長方形の空間に斜めに設置する軸材で、建物に作用する水平荷重に抵抗する働きをします。近年は、建物外周壁に構造用合板を用いる住宅が増えていますが、内部間仕切り壁の耐力壁には筋かいを用いるのが一般的です。

実際の地震では、建物は左右に繰り返し揺すられることになります。そのため、接合部が緊結されていない筋かいでは、最初に引張力を受けたときに軸組からはずれ、次に圧縮力が加わったときにはすでに筋かいの役割を果たさず、建物が倒壊するといった現象が生じます。

  • 筋かいを使用した軸組に働く水平荷重

    筋かいの向きに対して、こちら側からかかる水平荷重は、引張力として働きます。引張力には、筋かいを接合する金物の引張耐力で抵抗します。

    筋かいの向きに対して、こちら側からかかる水平荷重は、圧縮力として働きます。圧縮力には、部材の応力で抵抗します。

  • 引抜力の発生

    金物の引張耐力を超える引張力がかかると、 筋かいが抜けてしまいます。

  • めり込みと座屈

    部材の応力を超える圧縮力がかかると、筋かいの端部には めり込みを生じ、最終的には座屈破壊します

繰り返しの揺れによって軸組が壊れてしまうことのないよう、筋かい端部と柱・横架材の接合は、筋かいの種類に応じて建築基準法に基づく告示によって指定された仕様の金物を使い、設計することになっています。 また、筋かいをたすき掛けにした場合の、筋かい同士の交差部の補強方法についても規定されています。

すまいえ君のワンポイント解説

木材の品質

住宅の品質を安定したものにするためには、使用する材料の品質も大切。たとえば、木材の品質については建築基準法施行令第41条で、『構造耐力上主要な部分に使用する木材の品質は、節、腐れ、繊維の傾斜、丸身等による耐力上の欠点がないものでなければならない』と規定されているなど、材料そのものの品質についても、建築基準法とその施行令によって、耐久性や規格要件が定められているんだ。

木材の品質
さらに詳しく知りたい方へ 構造設計プロフェッショナルノート

耐力壁は仕様ごとに倍率が異なるため、壁の長さだけで単純に比較することはできません。そこで、倍率の異なる耐力壁を一様に比較できるよう、壁倍率1に換算した長さ(壁量)とすることで、必要壁量と実際に設置する壁量(存在壁量)との長さを比較します。これにより、ひとつの建物内に異なる倍率の耐力壁が混在していても、共通の評価ができることになります。

壁量計算

壁量計算は有効かつ簡便な方法ですが、下記のような前提条件があります。

・耐力壁両端の柱の接合部が、耐力壁そのものより先に壊れないこと。 接合部より先に、壁が壊れなくてはいけません。壁量を設計するということは、壁で壊れる設計をするということです。壁より先に他の部分が壊れてしまうようであれば、壁を強くする意味がありません。

・床などの水平構面が、耐力壁に比べて十分に硬いこと。 耐力壁上部をつなぎ、それぞれの壁に水平力を十分に伝える役割をしている水平構面が先に変形したり壊れたりすれば、いかに強固な耐力壁を設置していたとしても、その力を十分に発揮することができません。

一級建築士 齊藤年男

床の剛性

近年は、高倍率の耐力壁を用いることが多くなってきていますが、床の仕様はあまり変わってはいません。つまり、相対的に床の硬さが不足しがちになってきているということです。火打材や構造用合板を有効に利用して、水平構面の剛性を確保するようにしてください。

建築基準法の壁量計算では、存在壁量が必要壁量以上であることを確認します。 以下がその算定の式です。

壁量計算の算定式

存在壁量は、それぞれの壁ごとに『壁倍率×壁長さ』を計算し、合計したものです。 地震力に対する必要壁量は、梁間方向・桁方向ともに同じですが、風圧力に対する必要壁量は、立面の見つけ面積が異なりますので、X方向、Y方向によって異なることに注意が必要です。 必要壁量算定のための係数は下記表の通りです。

必要壁量算定のための係数

地震力用係数
(cm/m2
風圧力用係数(cm/m2
特に強い風が吹く地域その他の地域
軽い屋根平屋1150超75以下で特定行政庁が定める値50
2階建て1階29
2階29
重い屋根平屋15
2階建て1階33
2階21
※横スクロールで表を確認いただけます。

地震力用係数について

地震力は、質量とその部分に生じた加速度を乗じたものとされています。同じ加速度ならば、質量が大きいほど地震力は大きくなります。 『重い建物ほど、地震には不利』といわれるのはこのためです。 下階は支えている荷重が大きいために地震力も大きくなり、地震力用係数も下階のほうが大きくなっています。 また、地震時には上階ほど振られる傾向があります(加速度が大きくなる)。そのため、必要な耐力は、同じ重さを支えていても上階ほど大きくなります。2階建ての2階部分の必要係数が、平屋のそれよりも大きいのはそのためです。

地震時には、上階ほど揺られる傾向があります。
一級建築士 齊藤年男

壁量計算が満足する、中地震と大地震

建築基準法の想定する地震は、中地震と大地震の2種類です。 中地震に対しては『構造体は無被害であること』、大地震に対しては『構造体が壊れても倒壊を防ぎ人命を護ること』というのが目標になっています。壁量を設計するにあたり、壁量計算では、その両方を満足するように、ひとつの値を与えています。これは、壁倍率の決定方法が、両方を満足するように設定されているためです。

風圧力用係数について

強風に対する係数は、立面の見つけ面積あたりの値で与えられていますので、見つけ面積が大きくなると、風圧力も大きくなります。 また、風速は地域によって異なるため、沖縄のような台風常襲地域では想定すべき風速は大きくなりますし、地上から高い場所ほど大きくなる傾向もあります。 住宅の場合、その形状は長方形のものが大部分であることと、比較的低い建物であることから、それらを考慮して簡便にまとめて、風力用係数としています。

風圧は、地上から高いほど大きくなる傾向があります。
一級建築士 齊藤年男

風の強い地域では壁量に余裕を持たせた設計を

風圧力係数は、構造計算をする場合の基準風速では、32m/秒程度の地域に相当すると言われています。そのため、基準風速の大きな地域や海岸に近い地域の構造計算をすると、壁量計算で求められる壁量よりもたくさんの壁量が必要になります。 このような地域で壁量設計を行う場合には、壁量に余裕を持たせる必要があります

地震力や風圧力などの水平荷重に対して、全体の壁量は満たしていても、配置が片寄り過ぎてはいけません。耐力壁を配置する段階であらかじめバランスを考えておく必要があります。

壁の平面的な釣り合いの確認で重要なのは、『重心』と『剛心』の位置です。

  • 重心……建物の重さの中心。地震力の作用点と考えられます。
  • 剛心……壁などの耐力要素が地震などの水平荷重に抵抗する力の中心。

耐力壁の片寄りから生じる建物の変形には、ねじれとゆがみがあり、通常は両者が複合して出現します。ねじれは耐力壁間隔に比べて水平構面の剛性が比較的高い場合に発生し、ゆがみは水平構面の剛性が低い場合に起こりやすいのが特徴です。重心と剛心のずれが大きいほど、建物に水平荷重が加わった時にねじれやすくなります。

床剛性が高い場合

水平構面の剛性が高いと、剛心を中心として 回転しようとします

風圧は、地上から高いほど大きくなる傾向があります。

床剛性が低い場合

水平構面の剛性が低いと、水平構面自体が 変形してしまいます

床剛性が低い場合
一級建築士 齊藤年男

『四分割法』と『偏心率計算による方法』

建物のねじれやすさを確かめる方法として建築基準法では『四分割法』と『偏心率計算による方法』のふたつの方法が設定されています。 『四分割法』は、壁の平面的な配置を検証する簡易な検証方法として、2000年の建築基準法改正に合わせて作られました。一方、『偏心率計算による方法』は『四分割法』より計算が複雑で、木造建物では「四分割法に代わるものとして用いてもよい」という位置づけです。

筋かいは、横架材と柱の交点で、両方に接するように取りつけるのが一般的です。 建築基準法施行令第45条の3にも『筋かいは、その端部を、柱とはりその他の横架材との仕口に接近して、ボルト、かすがい、釘その他の金物で緊結しなければならない』と記されています。

筋かいが建物に取り付けられるようになったのは、明治初期の頃です。 当時の壁は真壁がほとんどでしたから、筋かいを壁の中に納めるために厚さ15mm前後の貫用の部材を用い、桁などの横架材の側面にくぎ打ち程度で取り付けていました。このため、圧縮力にはほとんど効きませんでした。

その後、次第に筋かいの断面は太くなり、圧縮力に効くようにもなってきました。 しかしながら、圧縮力を負担する筋かい端部には柱や桁を押す力が作用することから、端部の取り付けはこれまで通り、筋かいがずれない程度のくぎ打ち程度で大丈夫だと考えられていました。

ところが、建物は地震によって左右に繰り返し揺すられることになります。 最初に引張力を受けたときに軸組間から外れた筋かいは、次に圧縮力が加わった時にはその役割を果たさず、建物が倒壊するといった現象が生じます。 兵庫県南部地震ではこの現象により、多くの尊い命が失われました。これを受け、2000年の改正建築基準法では、筋かい接合部の仕様が筋かいの太さに応じて具体的に定められることになりました。

告示1100号では、筋かいの壁倍率に応じて必要な接合方法が具体的に記述されています。 この仕様は(財)日本住宅・木材技術センターが、Zマーク表示金物という独自の認証制度において使用していた筋かい端部金物の仕様を文章化したものといわれています。 現在では、これらの金物と同等以上の耐力を有する金物として、建築金物メーカーが多数製品化しています。

Zマーク表示金物の例
筋かい金物(BP) [ 筋かい30mm×90mm ]筋かい金物(BP-2) [ 筋かい45mm×90mm ]
筋かい金物(BP)
筋かい金物(BP-2)筋かい金物(BP-2)
※横スクロールで表を確認いただけます。
一級建築士 齊藤年男

筋かいの欠込み

原則として、筋かいには欠込みをしてはいけません。 筋かいと間柱が交差する部分は、間柱を欠き込んでください。 また、筋かいをたすき掛けにする場合でも、交差部は欠き込まないようにしてください。やむを得ず欠き込まなければならない場合は、補強をしなければなりません。

9cm角筋かいをたすき掛けした場合の交差部の補強方法例

たすき掛けした場合の交差部

※「建築工事標準仕様書・同解説JASS11木工事」(日本建築学会編著、平成17年11月)より抜粋

  • 本ページ内の記載事項は、2015年12月現在のものです。仕様変更や商品切替などの理由により、予告なく内容変更になる場合があります。
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